① タケシマキリンソウの自生地と孤島における変異 |
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タケシマキリンソウは日本海の孤島である韓国鬱陵島(旧名:竹島)に自生し、キリンソウ属では唯一の常緑性種です。
鬱陵島は急峻な岩場が多く、外来野草が少ない環境のため、タケシマキリンソウは木が生えていない岩場や裸地の優占種になっています。
写真の海岸の岩場の黄緑色の箇所は、開花しているタケシマキリンソウの群落です。 |
ガラパゴス諸島や小笠原諸島等の孤島では草が木に変化することがあり、タケシマキリンソウも日本海の孤島で茎の木質化や常緑性に分化したと考えられます。(写真は小笠原諸島のキク科のワダンノキ:HPより)
鬱陵島には「タケシマ」と名付けられた固有種が32種類あるそうです。
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鬱陵島にはタケシマキリンソウ、韓国本土にはキリンソウ(▲)が自生しています。
鬱陵島のタケシマキリンソウの遺伝子はタイプ01(●)とタイプ02(★)とがありますが、混在しているため、形状等での区別は困難です。
また、竹島のタケシマキリンソウは平成8年に鬱陵島から移植されたもの(ハンギョレ新聞)で、全てタイプ02です。
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② タケシマキリンソウと常緑キリンソウ |
タケシマキリンソウ(写真右)はイギリスの多肉植物の専門誌(The sedum society)の1991年の特集記事で常緑性であることが記載されており、常緑性で環境適応性に優れているため、日本では欧米から輸入された苗が園芸店で販売されています。
形状や性状の変異が多く、直立性~匍匐性の系統があり、常緑キリンソウ(写真左、品種登録名:トットリフジタ1号)も同種であり、常緑性や茎が木質化する特徴が一致します。
常緑キリンソウは新潟産のキリンソウの自然交配種として2007年に品種登録されていますが、2000年にキリンソウの研究者がタケシマキリンソウを育成者に提供されています。
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種名 |
分布 |
生育型 |
受粉 |
染色体数 |
ホソハ゛ノキリンソウ |
日本、韓国、中国、ロシア |
落葉性 |
自家 |
96、128 |
キリンソウ |
〃 |
〃 |
〃 |
32,48,64,96等 |
エソ゛ノキリンソウ |
日本(北海道) |
半常緑性 |
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32、48等 |
ヤナキ゛ハ゛キリンソウ |
韓国(江原道の山岳地) |
〃 |
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タケシマキリンソウ |
韓国(鬱陵島)、竹島 |
常緑性 |
他家 |
32 |
常緑キリンソウ |
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〃 |
〃 |
32 |
キリンソウ属には落葉性のホソバキリンソウ、キリンソウ、半常緑性のエゾノキリンソウ、ヤナギバキリンソウ、常緑性のタケシマキリンソウ等があり、東アジアの海岸や山岳地に広く分布します。
① タケシマキリンソウは半常緑性の種(エゾノキリンソウ、ヤナギバキリンソウ)から分化したと推察され、偏西風による漂流や鳥散布が生じやすいヤナギバキリンソウ(韓国)が先祖である可能性が高いと考えています。
② キリンソウは落葉性の自家受粉種、タケシマキリンソウは常緑性の他家受粉種で、性状に大きな相違があります。
③ 常緑キリンソウは新潟産の落葉のキリンソウを母親とする自然交配種(父親は不明)とされていますが、短年の育種でキリンソウからタケシマキリンソウに酷似した種は生まれません。
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③ キリンソウから常緑キリンソウが生まれない訳 |
常緑キリンソウ(トットリフジタ1号)の育成者の依頼で鳥取大学乾燥地研究センターで行われたDNA解析データです。
トットリフジタ1号とX(タケシマキリンソウ)のDNAがほぼ一致し、親であるはずの富山(キリンソウ)とDNAが全く異なっていますが、Xが登録種を増殖したものと主張されています。
生物の遺伝は、親の遺伝情報を正確に伝えることが基本であり、親と全く異なるDNAを持つ種が自然交配で生まれることはありえません。
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種名 |
キリンソウ |
タケシマキリンソウ |
備考 |
ITS1 |
ITS2 |
ITS1 |
ITS2 |
ホソハ゛ノキリンソウ |
98.0 |
97.2 |
94.6 |
94.4 |
タケシマキリンソウとは最も遠縁 |
キリンソウ |
100.0 |
100.0 |
96.3 |
95.9 |
タケシマキリンソウとは遠縁 |
エソ゛ノキリンソウ |
100.0 |
99.1 |
99.7 |
98.8 |
キリンソウとは交配も可能 |
ヤナキ゛ハ゛キリンソウ |
<98.0 |
<98.0 |
99.3 |
98.8 |
タケシマキリンソウの先祖? |
タケシマキリンソウ |
96.6 |
95.3 |
100.0 |
100.0 |
キリンソウとは遠縁 |
常緑キリンソウ |
96.3 |
95.9 |
100.0 |
99.6 |
〃、タケシマキリンソウと近縁 |
(キリンソウ属のDNA相同性)
遺伝子の変異の多い、核リボソームDNAのITS1及びITS2領域の塩基配列解析を行い、国際データベース(BLAST検索)と比較し相同性を整理しました。
① 常緑キリンソウはタケシマキリンソウとDNAがほぼ一致し、性状や形状も酷似するため、タケシマキリンソウ種又はその近縁種であると考えられます。
② 相同性が98%以下の種は交雑できない遠縁種であり、常緑キリンソウと親であるはずのキリンソウの相同性は 95.9~96.6%であり、植物遺伝学的に性状やDNAが大きく異なる生物が突然生じることはありません。
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④ 常緑キリンソウの品種識別 |
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農林水産省のホームページに掲載されている、常緑キリンソウ(トットリフジタ1号)とその他のキリンソウ類との遺伝子の相違を解析するための検討結果です。
品種識別マーカーは同一種内の僅かな遺伝子の差異を検討するもので、登録種が違法に増殖されることを防止するために上記の試験が行われています。
常緑キリンソウが親であるはずのキリンソウ(柏崎)とバンドを共有せず、他種であるはずのタケシマキリンソウとの僅かな差異を品種識別マーカーにより判別しようとするものです。
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登録2種とTF3がキリンソウ種よりもタケシマキリンソウ種に近く、タケシマキリンソウ5がキリンソウ種であることを示していますが、領土問題のある島の名前を持つ登録は現在もキリンソウ種(登録後に農林水産省がエゾノキリンソウ種に変更)として維持されています。
別種を親として出願すれば、区別性があるのは当然であり、登録種や供試植物の種が確定されないまま審査され、遠縁のキリンソウを親とする登録は維持されています。
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登録者はタケシマキリンソウの原産国である韓国でも同様の登録がなされています。
忠北大学校森林科学部と山林品質管理センターの共同研究「登録品種トットリフジタの起源をたどるためのキリンソウ属の分枝系統学的研究:Plants
2020,9(2),254 でも、登録種がキリンソウではなく、タケシマキリンソウであると結論づけられ、韓国山林庁より登録種名をタケシマキリンソウに訂正するよう指示を受け、タケシマキリンソウ種に訂正されていますが、日本の登録は審議されることが無いようです。
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